The Magic of Beads
ガラスが語る物語
Handcrafted Venetian glass bead by Maurizio Lotter with a rooster murrine by Ulderico Moretti

ムラノの誇りを背負った雄鶏

2026年10月2日

ガラスが最初に作られたのは、4,000年以上前といわれています1)。メソポタミアやシリア、エジプトなどで発展し、やがてヨーロッパへと広まっていきました。  

古代ローマ時代には、さまざまな色のガラス棒(カンナ)からスライスした切片を組み合わせ、モザイクガラス(ムリーノガラス)の器が作られていました2)。その技法を復活させたのが、19世紀のムラノ島のガラス職人たちです。

職人たちは、花や星などさまざまな模様を織り込んだ金太郎飴のようなガラス棒やその切片(ムリーネ)を使い、精巧で革新的な作品を生み出していきました。ムリーネを組み合わせて鮮やかな花模様を表現したガラスは「ミルフィオリ(千の花)」と呼ばれ、ムラノガラスを代表する工芸品として知られています。 

近代でミルフィオリの新たな可能性を切り拓いた先駆者の一人が、ジョヴァンニ・バッティスタ・フランキーニ(1804–1873)です3)。彼は伝統的な星形にとどまらず、数々の複雑な模様のムリーネを生み出しました4)。さらに息子のジャコモ(1827–1897)は、ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世やガリバルディなど、当時の英雄の肖像画をかたどったムリーネを制作しました。

そして、古代のムリーノガラス技法を研究・分析して再現したのが、ヴィンチェンツォ・モレッティ(1835–1901)です4)。彼はアレクサンドリア時代やローマ時代の技法を用いてムリーネを制作し、その技術は息子のルイージ(1867–1946)、孫のウルデリコ(1892–1956)へと受け継がれました5)。

ウルデリコが活躍した時代は、ムラノ島にとって大きな転換期でした。当時、ヴェネツィアとムラノはイタリア王国に属する別々の自治体でしたが、1923年12月30日の王令によって、ムラノ市はヴェネツィア市に編入されることが決まりました6)。 

この前後、ムラノでは併合に反対する民衆たちが抗議活動を起こしました。彼らはムラノの象徴である「雄鶏」のスタンプを外壁の至る所に押して回り、激しい抗議活動を続けました7)。ウルデリコも抗議の意を込め、雄鶏をかたどったさまざまなムリーネを制作しました8)。ムラノの人々は雄鶏のムリーネを自らの誇りとして、バッジやイヤリング、ペンダントにして身に着けたといわれています。

モレッティ家の継承者であるウルデリコの養女ジュージ・モレッティは、代々のムリーネを受け継ぎ、唯一無二のジュエリーをデザイン・制作し、次世代へとつないでいます。雄鶏のムリーネもその一つです。

私は彼女から大切な雄鶏のムリーネをいくつか譲り受け、それをガラスビーズとして新たに蘇らせました。彼女のFacebookでも、そのことが紹介されています9)。

ムラノの歴史と誇りを宿した雄鶏は、今もガラスの中から声を上げ続けています。歴史を受け継ぐガラスで作品を作ることは、私にとって大きな誉れであると同時に大きな責任でもあります。

貴重なガラスを私に託し、このような機会を与えてくれたジュージ・モレッティに、心より感謝を送ります。 

ありがとう、ジュージ。


【参考文献】

1)Museo del Vetro, “Le origini,” Museo del Vetro, Accessed October 2, 2026, https://museovetro.visitmuve.it/it/il-museo/percorsi-e-collezioni/raccolta-archeologica/.

2)V. Gedzevičiūtė, N. Welter, U. Schüssler, and C. Weiss, “Chemical composition and colouring agents of Roman mosaic and millefiori glass, studied by electron microprobe analysis and Raman microspectroscopy,” Archaeol Anthropol Sci 2009; 1: 15–29, https://doi.org/10.1007/s12520-009-0005-4.

3)A. Panini, Il mondo in una perla. La collezione del Museo del vetro di Murano, Antiga Edizioni, Crocetta del Montello (TV), 2017, 33–34.

4)G. Sarpellon, Murrine e perle veneziane, Fondazione Musei Civici di Venezia, Venezia, 2018.

5)G. Moretti, “La Storia della Famiglia Moretti,” Giusy Moretti® Luxury Design, Accessed October 2, 2026, https://www.giusymoretti.it/storia/.

6)Regno d’Italia, Gazzetta Ufficiale del Regno d’Italia, Parte Prima, 18 gennaio 1924; 15:  279, Accessed October 2, 2026, https://www.conaf.it/wp-content/uploads/2018/02/2-R.D.-del-31-dicembre-1923-n.-2909-G.U.-del-18-gennaio-1924-n.15_3.pdf.

7)A. Toso Fei and D. Marangon, I graffiti di Venezia, lineadacqua edizioni, Venezia, 2022,  195–197.

8)Museo del Vetro di Murano, Schegge di vetro 08_2012: Gioielli. Le murrine, Fondazione Musei Civici di Venezia, Venezia, 2012.

9)G. Moretti, Facebook, August 15, 2026, https://www.facebook.com/story.php?story_fbid=1017467421128489&id=100085957215057.